映画

【映画】隔たる世界の2人 繰り返される悲劇のループ SF要素と思いきや…? 実際の事件なども絡めて感想・解説・ネタバレなど 76点

IMDbより引用

作品解説

監督 トレイヴォン・フリー マーティン・デズモンド・ロー
脚本 トレイヴォン・フリー
原題 Two Distant Strangers
公開 2020年11月20日
上映時間 29分

キャスト

  • カーター・ジェームズ ジョーイ・バッドアス
  • メルク アンドリュー・ハワード
  • ペリー ザリア・シモン

感想 解説 見どころ

今回は当ブログで初めて紹介する短編映画です!
あまり普段は短編映画は見る事がないんですが今作はなんとNetflix制作ながらアカデミー賞短編実写映画部門を受賞し話題に上がっていたので見てみました!

監督の一人、トレイヴォン・フリーさんの他作品は存じ上げてなかったのですが名前がトレイヴォンとあるのを見てトレイヴォン・マーティン射殺事件となんか関係があるのかなと思いましたがたまたま名前が一緒だっただけですね。

主演の黒人青年はジョーイ・バッドアスで現役のラッパーが演じていますね。
ゴリゴリのラッパーの彼ですが黒人差別を批判した曲なども出しており社会派ラッパーみたいですね。
今作のコンセプトは思う所があるでしょう。

白人警官を演じるのはアンドリュー・ハワード
存じ上げない方だったんですが最近だとテネットとかに出てたみたいですね。
あとはちょっと前になりますがリミットレスにも出てた様子。
かなり嫌な役ですが良い演技してます!

簡単にざっくりあらすじ

主人公カーターは昨夜知り合ったばかりの女性と一夜を共にし朝に目を覚ます。
たわいもない会話をしつつ、家には愛犬が待っているのでもう帰らなきゃといい部屋をあとに。

外に出た際、偶然飲み物を持った男性にぶつかり服を汚してしまい文句を言われました。
その際うっかり大金を止めたマネークリップを落とした所を白人警官に見られてしまい、因縁をつけられます。

黒人なのになんでそんな大金を持っている?吸っているタバコから変な臭いがする、本当にタバコか?所持品を検査させろと詰め寄られるカーター。

普通のタバコだしお金はデザイナーの仕事で得たものだと反論しますが白人警官はますますヒートアップ。
無理やりカーターを拘束しようとしたため抵抗した所、応援の警官が駆け付け大人数で取り押さえられます。

その際警官にのしかかられ息もできないほど圧迫されたカーターは死んでしまいます。

その瞬間、飛び起き気が付くと今朝起きたときと同じ状況で目覚めました。
カーターは白人警官に殺される夢を見たんだと自身に言い聞かせるが、非常に彼女の振舞いなど既視感のある事ばかりおきます。

そして外に出た所また例の警官にまた因縁をつけられ今度は銃殺されてしまいます。

またしても今朝に戻されるカーター。ここで初めて彼は殺されると今朝に戻るループに陥っている事に気づきます…

以上が簡単なあらすじですね。
所謂死に戻りループものです。

この後なんども惨劇が繰り返されてきます

普通ループものってどうやってループから抜け出すか、ループの原因はなんなのかなどを解明する流れがあるのですが今作ではそこには焦点を当てていません。

この映画には全くSF的なものではなく政治的なメッセージが込められているのです。

ここから先はネタバレを含むのでご注意!!

今作のテーマは?

実はこれの警官による主人公殺害は全部実際にあった黒人殺害事件を元にしています。
つまり物語のテーマは黒人差別を根幹に置いています。

作中でもそれを示す演出がなんども挿入されています。

序盤のカーターの部屋に置いてある本はジェームズ・ボールドウィンによって書かれたもの。
これは黒人公民権活動を行っていた作家です。

後半カーターが白人警官に家に送ってもらう際、ビルの屋上が映るのですが、そこにはジョージ・フロイドを初めとする人物名と「Say their name」の文字。被害者たちの名前を叫べという意味です。

ジョージ・フロイドは偽札使用容疑で公道で白人警察官に不当に拘束され頸部圧迫による呼吸困難で亡くなった黒人の名前です。
本作でも最初にカーターが殺されるシーンではこのジョージ・フロイドの殺され方と全く同じ方法で殺されてしまいました。

日本でもこの事件はメディアなどでも取り上げられBLM運動(Black Lives Matter:ブラック・ライブズ・マター意訳すると黒人の命も大切だ)を加速させた有名な事件です。
ジョージ・フロイドの「I can’t breathe:息ができない」という言葉は実際にテレビで観た方も多いのではないでしょうか。

そして物語の後半では何度も死んでは繰り返すカーターはついに白人警官になんどもあなたに殺される夢を見ているといい、説得しようとします。

最初は信じなかった警官も、カップルがキスをする、女性が自撮りをするなどこれから起こる事を言い当てるのを目の当たりにして驚きとともにカーターを信じる事に。

もう死にたくないカーターは警官に家まで送ってくれと頼みます。

送ってもらっている車中では黒人と白人について議論を交わします。
黒人はその人種というだけで白人に比べ不当な扱いを受けている、白人は生まれながらに白人という恩恵を受けていると。

これの議論はお互い怒りを持って接しているのではなく冗談を交えながらとてもいい雰囲気で行われます。

こんなに黒人と喋ったのは初めてだと警官が言うほどです。
ここで白人と黒人はお互い歩み合って対話をすれば理解し合えるかもしれないと示すようなシーンになっています。

警官は自身の事を妻と三人の子供と二匹の犬を飼う典型的なアメリカ人と言いました。
これは多くのアメリカ人が同じように黒人に対して偏見を持つとともに対話によって分かり合えるかもしれないという事も示しています。

しかし実際そう上手くはいきませんでした。

家に送り届けた警官は突如態度を変えます。
俺の良心に訴えかけるとはよく考えたものだと。

そして今までで一番だと。
つまり警官はこのループを認識しており、なおかつこれらの関係は決して変わる事はないという事を現しています。

実際に黒人と白人は本当の意味で分かり合い、手を結ぶことができないというオチですね。

再度銃殺されたカーターの血だまりはアフリカ大陸の形をしていました。

またしても一夜を共にした女性の家で目を覚ますと彼女に対話を試みたが無駄だったと語ります。

しかしそれでも、何度繰り返しても自分は諦めずに家に帰ろうとすると決意します。

黒人は自分の家に帰るという日常のワンシーンでも命を落とす可能性があるという事。
そんな不当な現実に対して立ち向かうカーターでした。

個人的な考察ですがカーターの来ている服は黄色に日の丸を思わせるようなデザインです。
これは黒人だけではなく黄色人種も差別の対象になっている事を示唆しているように思いました。

黒人以外にも被差別人種はいるというメッセージではないでしょうか。
全く救いがない終わり方ですが見るものになんとも考えさせるような映画でした。
ループものというSFチックな設定ながら非常に政治的なテーマの作品ですね。

全く前情報がない状態で観たのですがなんとも考えさせられました。

蛇足的な考察

個人的に気になった点としてカーターが所持品検査を頑なに拒否したことが気になりました。

単純に不当な検査に対する反抗や実際の事件でも実際の事件で所持品検査を拒否した事実をなぞったともとれますが何度も死を繰り返しているのにそこまで拒否するのかの説明は特にありません。

一度くらい検査を拒否せずに対応する事をしてもいいのではないかと思いました。

これも穿った見方をするなば黒人にも後ろめたさがあるのではないかと。

実際にアメリカでは黒人に対する不当な拘束がある一方で人種別に見ると黒人の犯罪率は高いというデータがあります。
しかしそれらの原因を考えると人種差別により職に就けず、満足な教育が受けられない事や貧困により犯罪に手を染めざる負えないという背景もあります。

カーターが頑なに所持品検査を拒絶するのはカーター自身をアメリカにいる黒人の象徴として登場させた今作では黒人の犯罪率の高さという現実に対するメタファーではないかなと思いました。

被差別人種であるが犯罪率は高いという後ろめたさを現しているのではないかと。

めちゃめちゃ暴論な気がしますがこの作品でちょっと気になった事だったので一応書いておきました。
BLM運動を象徴するような黒人への差別批判の本作なのでこのような解釈は製作者の意図していない事かもしれませんが。

あうあう

短編でありながら思いテーマとループものを組み合わせた秀逸な作品。
オチは暗いが希望を持ち得る終わり方になっています。
人種問題について考えるには最適な一本。 76点

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