作品情報
作者 山本英夫
出版社 小学館
掲載紙 ビックコミックスピリッツ
巻数 全15巻
あらすじ
主人公、名越進は元エリート銀行員だったが現在ではかつて自身が常連だったホテルとホームレス達がたむろする公園の間で車中ホームレスの生活をしていた。そんなどっちつかずの名越の元へ医学生、伊藤学が現れる。彼は名越にトレパネーションという施術を行い第六感の発露などの研究に協力してほしいと申し出る。最初は断る名越だったが金銭的に追い詰められついにはお金を受け取り施術を受けてしまう。トレパネーション施術後、名越は人のトラウマや深層心理に潜むコンプレックスが具現化して見える能力を授かってしまった…
感想 解説 考察など
今回は久々の漫画レビューです!
今作の作者、山本英夫先生は人の心、心理をえぐるような濃い漫画を描くことで有名です。
当サイトでレビューした「映画版殺し屋1」も山本先生の作品ですが、相当人を選ぶ内容になっています。
映画版殺し屋1の記事はこちら!↓
今作ではそのエグさにより磨きがかかり、独特の世界観が作られています。
人によっては気分を害するような作品ですがとても奥が深くて面白い作品なので是非、手に取って欲しいと思います!
トレパネーションとは?実際にある施術?
今作で行われるトレパネーションという施術をまずはご紹介します。
人の頭蓋骨は生まれた時にはまだ隙間があり、しばらく経つと成長とともに隙間がどんどん埋まっていきます。
トレパネーションで頭蓋骨に穴をあける事により、生まれたての子供のような感覚を取り戻したり、また血流が行進し、第六感が覚醒したり新しい能力が生まれるという原理です。
古くは古代ギリシャでの頭痛の治療や、1960~1970年代ごろには意識の覚醒の為実際に行われてきた施術です。
もちろん医学的な根拠はなくオカルトめいたもので、危険性が高い為現代では違法な施術とされています。
しかし今作では名越はトレパネーションを受けた事により他人の深層心理に根付くトラウマやコンプレックスが視覚的に感じる能力が目覚めました。
ホムンクルスとは?人造人間?
元々ホムンクルスとは「フラスコの中の小人」という意味で、かつて有名な錬金術師、パラケルススが作り出した人造小人です。鋼の錬金術師など漫画の影響で人造人間的な意味合いで知る方がほとんどでしょう。
しかし今作で使われるホムンクルスの定義としては上の図のように、人間の感覚を感じる部分を強調した小人の図、または脳に沿って感覚の強さと感じる場所を示したホムンクルス図から名前をとっています。上の図で言うとより感じやすい場所、口や手先などが大きく強調されています。
より感覚が鋭敏な部位が大きく強調された小人のように、名越には人の脳、深層心理、トラウマやコンプレックスが強調された姿で見える為ホムンクルスという名前で作中は呼ばれます。
名越という人物。謎多き主人公。
今作ではトレパネーションを受けた事により、主人公名越は右目を隠すことでホムンクルスが見えるようになりました。しかし全ての人間がホムンクルスとして見えるわけではありません。
これにはある一定の条件があると作中では示唆されます。
それは主人公、名越と共通するようなトラウマやコンプレックスが現れていること。
一番最初に関わったホムンクルスはヤクザの組長でした。
彼のホムンクルスは堅牢なロボットの中に幼い少年が入っており、自らの小指を切ろうとしている姿で描写されます。
この組長は少しでもミスや気に食わない事があるとすぐに小指を詰めさせる癖があります。
作中でも70人以上の子分の指を詰めたと説明されています。
そんな彼のトラウマは幼少期に友人の指を誤って切り落としてしまった事です。
カマを使って友達と遊んでいる時に誤ってその友人の小指を切ってしまうのですが、恐ろしくなった彼は謝る事もできず逃げ出してしまいました。
そのトラウマを払拭する為に虚勢を張り続け、ヤクザになり子分の指を詰めるという行為を行うようになったのです。つまり幼少期の罪悪感を退けるため指を詰める立場になったという事です。
もちろん深層心理の奥深くに秘められたトラウマなので周りの人物はおろか、本人でさえも忘れてしまった記憶です。それを名越の能力によって読み解かれ、もう自分自身を追い込まなくてもいいんだと説得します。
過去を受け入れ贖罪をしたことにより、少年の姿をしたヤクザの組長はロボットのような鎧を脱ぎ捨て本来の自分を取り戻す事ができました。
また名越も幼少の頃、自らの過ちで友達に障害が残るほどのケガをさせた事を思い出します。
そしてホムンクルスが見えなくなった組長の代わりに自身の右腕がロボットの鎧に包まれてしまっていました。
このように他人のホムンクルスを解放するとその一部が自身のホムンクルスになってしまいます。
他人のホムンクルスとリンクする事により名越は自分自身のトラウマやコンプレックスと向き合う事になります。
次ページからは物語の核心部分についてのネタバレになるので未読の方は注意!