漫画

【漫画】昭和不老不死伝説バンパイア 解説 感想 考察 ネタバレあり。あーちゃんの元ネタは三島由紀夫?

Amazon より引用

作品情報

作者 徳弘正也
出版社 集英社
掲載紙 スーパージャンプ
巻数 全5巻

今回は以前記事にした狂四郎2030を描いた徳弘正也先生の昭和不老不死伝説バンパイアをご紹介します!狂四郎2030の記事はこちら↓

狂四郎を読んで面白かった人はこちらも是非おすすめです!
今作も下ネタギャグとシリアスのバランスが絶妙な一作です。また内容も哲学的、宗教観など深い内容なのでしっかり解説していきたいとおもいます!

あらすじ

幼いころに両親を強盗に殺されたトラウマにより喋る事ができなくなった高校生本田昇平は人とは違う特殊能力、念動力を持っていた。しかしその力は弱く、高校生にして未来を憂い、いずれ経済的にも社会的にも崩壊するだろう日本社会に対して嫌気がさし鬱屈とした日々を送っていた。

そんなある日、下校途中に謎の美女と出会い、無理やり路地裏に連れ込まれ”人と似たりよったりのありふれた人生を送りたい?”、”一度きりの生を燃えあがるカタルシスで駆け抜けたい?”、”自分の力を100%発揮して闘い死に際して何の悔いもなかったといいたい?”と突然問われ、そのままありふれた日常を否定した瞬間、セックスが始まった。

謎の美女はマリアといい、彼女は自分を守るために能力者を探していた事、そして自分はバンパイアだと言い残し去っていった。

そして言葉を失っていた昇平は突如喋れるようになった自分に気づいた。
マリアは不老不死のバンパイアで何百年も生き、どの時代でも不老不死を求める権力者たちに命を狙われ、そのたびに自身を守る”覚醒者”を見つけ力を与えて共にしてきたといい、現代でも大手財閥十文字グループが作った比丘尼クラブと名乗る秘密結社に狙われていると話した…

昇平とマリアは情交を重ねながら来るべき対決に備え力を強化していく。
しかし比丘尼クラブの幹部、十文字篤彦はまた別な思惑を持って二人を監視していた…

感想 解説

一話目からスピード感がやばいっすね笑
連載一発目はいかにキャッチーにするかが漫画連載のポイントですがキャッチーすぎます!
主人公が喋れない、超能力者、バンパイアの出現、唐突にセックス、謎の比丘尼クラブと要素がてんこ盛りです笑

一話目からゴリゴリのお色気シーンから始まるのが徳弘正也先生っぽいですね。
相変わらず先生の描く女性は色気がやばい。

今作「昭和不老不死伝説バンパイア」は現代編であり、後に「近未来不老不死伝説バンパイア」と改題して近未来編になる2部構成になっています。

現代編では主に昇平マリア、そして比丘尼クラブの幹部、十文字篤彦(あーちゃん)を中心に物語が進みます。

今作ではバンパイアの身を守る”覚醒者”の能力を高める為、浄化(イニシエーション)と称して情事を重ねるのですがめっちゃそのシーンが多いです笑
狂四郎ほどではないですがやっぱりお約束ですねー。

今作で重要なキャラクターは”バンパイアのマリア””比丘尼クラブの十文字篤彦”の二人。それぞれ強烈な個性を持ち、ゆるぎない自身の哲学を持って行動しています。そんな二人の間でまだ人間として未熟な昇平の気持ちが揺れ動くのが今作の見どころですね。
日本の未来に絶望、同級生を無知で愚かなクズと見下す昇平ですが、その思想はまだ青さが残ります。

超能力やバンパイアなどSF要素だらけですが内容としては自然回帰原始宗教戦争忌避行き過ぎた資本主義に対す警鐘、異なるイデオロギーなどかなり深い内容がメイン。哲学的な内容も多く、作中の人物の発言には、はっとさせられる事が多かったです。

SF要素やエログロ要素で今作を読まず嫌いしていた方はもったいないので是非ご一読をおすすめします!

以下からネタバレあり感想解説に入ります。未読の方はご注意を!

不老不死のバンパイア、マリアの正体は?

何百年にもわたって生き歳をとらず、かつ銃で撃たれたり手足が取れようともすぐさま再生してしまうマリアですが完全なる不老不死ではありません
首を跳ねられたり、バラバラに切り刻まれれば当然死にます。
また不老不死に見えますが、実際は無性生殖により自分で自分を生むことにより常に若い姿で長い時代を移り歩いてきました。

姿かたちや超人的な自己治癒能力はもちろん、不思議なことに記憶や性格、人格までもそのまま引き継いで生まれ変わります。
その為周りから見ると不老不死に見えるというのが真実でした

作中では恐らく戦国時代から生きている描写がありましたが、その出自自体は明らかになっておらず一体いつからこの世に存在していたのかは作中では語られていません。どの時代でも不老不死者として命を狙われたり、新興宗教に祭り上げられ利用されたり常に危険と隣合わせでした。

そのような経歴の為、いつの時代でも争い、殺し合いが絶えない人間社会に対してクールにどうしようもないものと諦めている節があります。
ただ個人個人の人間には絶望しておらず、自然に身を寄せそれぞれの人が身近な小さな幸せを感じられればいいと達観した哲学を持っています。

極端に言えば、日本の経済が崩壊したとしてもまた一からやり直せばいいし戦争さえせずに暮らしていければいいじゃないかという長く生きているだけある日本の行き先についての考えを持っています。

最重要キャラ、十文字篤彦とは?

マリアの不老不死の謎を求める秘密結社比丘尼クラブの幹部、十文字篤彦(あーちゃん)。

今作の主人公は彼と言っても過言じゃないほど重要なキャラクターです!
マリアを狙う敵対組織に身を置きながらマリアの無事を祈る彼。
その正体は、10歳になるまでマリアに育てられた子供あーちゃんでした。

数十年前に新興宗教団体に命を狙われた際にマリアはその教祖の一部郎党皆殺しにしました。
ただその時まだ生まれて間もない赤子のあーちゃんだけは当時の覚醒者、古田タミの助命の願いを聞き入れ、見逃すことにしタミが育てる環境を作る間、マリアが直接山奥の山村で育てることにしました。

二人は自然の中で決して裕福ではなく、むしろ貧しい生活でしたが、あーちゃんにとってささやかな幸せを享受できたかけがえのない時間でした。その後タミの元で育ち弁護士になり立派な大人になった時、十文字グループの顧問弁護士を務めたことがきっかけで不老不死の為マリアを狙う比丘尼クラブの存在を知ります。

彼はマリアの命を守る為あえて強欲で醜悪な十文字家の娘と結婚し信用を得ることによって陰ながらマリアを守ろうとしていたのです。

しかし彼は10歳になりマリアと別れる際に、二度と会わないようにと約束した為直接マリアに会って助ける事ができません。再びマリアの前に現れたら復讐しにきたと思われてしまうからです。
当然マリアはそんな風に思わないかと思いますが彼は断固として彼女の前に直接出ることを避けます。

そして裏ではマリアを神として扱う宗教団体マリア会を結成し陰ながらマリアを支えようとしていました。いつの時代になっても不老不死の魅力に憑りつかれた権力者たちに狙われてしまうマリアが安心して暮らせる世界を作る為、マリアを神に据えた宗教国家を作ろうと計画していたのです!

彼は病的なまでにマリアを絶対視し、昇平にもマリアに隠れて接触しマリア会の教えを説きます。
しかし彼の計画ではクーデターを起こし日本を転覆させ新しい宗教国家を作る過激な思想でした。
マリアの為にとは言え内戦も辞さない危うさを感じながらも昇平は篤彦に信頼を寄せていきます。

圧倒的なカリスマ性と行動力、そしてマリアに対する愛は昇平から見てもかなわないと嫉妬してしまうほどでした。

しかし、果たして彼のマリアに対する憧憬や思想は実在するマリアに則したものだったのでしょうか…
マリアの為という気持ちと、自身の理想の宗教国家を作るという野望の中で迷う姿はとても人間臭くていいキャラをしています。

個人的感想なのですが、この十文字篤彦はどことなく三島由紀夫を感じさせる要素が多々あり、作者も少し意識していたのではないでしょうか?

クーデターを実現させるために自衛隊の訓練に会社の研修として参加し実際に同じ釜の飯を食べ、自衛隊を理解し支援し、自らの言葉で自衛隊員たちに日本の現状、未来について語り少しずつ信頼を得ていきます。
これは三島由紀夫も実際に自衛隊の訓練に参加して当時の自衛隊に信用を得たり幹部に接触する為の手段として使われました。(実際は公安に目を付けられ、内通者を送り込まれましたが…)

また理想の実現の為、自身の命をささげる事、志に殉ずる事を美しく思うなど三島由紀夫感がありますね。マリアを神とする篤彦と天皇陛下を神とする三島由紀夫。またそれ自体に対して様々な思いがある点でも共通していると思います。(マリアの教えを神の教えとするが現実のマリアについては避けようとしている節がある。天皇を神とすえた国を理想とするがその当時の天皇制に関しては現人神ととらえてはいないなど)

ラストについて

ラストは十文字グループが保身の為、マリア抹殺を図るのですが逆にマリアに反撃され比丘尼クラブは壊滅します。大量殺人を行ったマリアは警察から逃れるため山奥にほとぼりが冷めるまで何年も人里離れて暮らす決断をし昇平に別れを告げます。

そして十文字篤彦はマリアの安全は守られたと思ったのも束の間、側近の唐沢がアメリカの軍産複合体のスパイである事を知らされ、クーデター成就の為取引を行います。
クーデター成就後にアメリカの軍事企業から兵器を買う事を約束する代わりにクーデターの際、在日米軍が関与しないことを確約させました。

しかし唐沢らの真の目的はやはり不老不死であるマリアそのものだったのです。

山中に身を隠したマリアを捕獲する為一個大隊を率いて襲撃します。
バンパイアの弱点を知り尽くした精鋭兵士たちはマリアを追い詰めていきますが、北アルプスというわずかな手掛かりを頼りに昇平が危機一髪の所で助けに入ります。
しかし多勢に無勢、徐々に追い込まれていく二人。昇平は絶対マリア会のあーちゃん達が助けてくれると信じて待っていましたが助けが来ることはありませんでした。

なぜならあーちゃんはクーデター成就の為マリアを見殺しにすること決めてしまったのです。
唐沢によってあーちゃんが理想として抱くマリアは現実のマリアとはかけ離れていてもう必要ない。これは理想のマリアではないと説得されマリアへの襲撃を黙認してしまいます。

そしてマリアと昇平は二人で生還することは不可能だと悟り、最後の賭けに出ます。
投降を約束し1日時間を稼ぎ、マリアは無性生殖により自身を生み、その赤子を昇平に託し逃げろというのでした。昇平は最後までマリアを救おうとするのですが、マリアは昇平と赤子を守る為ガンシップと対峙し爆散して死んでしまいます。

あーちゃんはマリアを見捨ててしまったことで茫然としている中、用済みの為背後から唐沢に銃で撃たれ、昇平は無事マリアを連れて逃げ延びたのでした。

まとめ

今作は2部構成になっており、まずは前編の昭和不老不死伝説バンパイアをご紹介しました。
昭和と銘打っていますが現代編ですね。

昇平やあーちゃんは極端すぎると思いますが、2020年の今でも日本の未来は暗い、いずれ崩壊が来る、すでに腐敗しつくしている、国民は経済大国日本という幻想を持ったまま生きているなど考える人は多くいるでしょう。そんな時代、過激な思想を持つ団体がいつ現れてもおかしくないという恐怖もあります。
実際マリア会のモデルもオウム真理教ではないかと思います。(教祖を中心とした宗教国家をクーデターにより実現しようとする、武力行使を辞さない、高学歴エリートなどが思想に共感して参加)

SF作品と銘打っていますが実際はかなり社会風刺が効いた徳弘正也先生らしい作品ですね。
狂四郎2030の世界になる前の日本のような危うさが感じられます。

点数に関しては次回の記事でまとめて採点しますので今回は割愛します。

続編はこちら!↓

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