作品情報

作者 新井英樹
出版社 小学館
掲載紙 週刊ヤングサンデー
巻数 全14巻

あらすじ

東京都内各所で消火器爆弾を設置するモンちゃんとトシの二人組(通称トシモン)は、これといった理由もなく北海道を目指す。その道中、青森県で成り行きから連続爆破、警察署襲撃、殺人代行といった日本全土を震撼させる無差別殺戮を開始する。それは内閣総理大臣までも舞台へと引きずり出す大きな勢いとなる。時期を同じくして、北海道から津軽海峡を渡ったといわれる謎の巨大生物「ヒグマドン」が出現し、次々に人々を惨殺して東北を南下していった。「鉄人」とも呼ばれる熊撃ちの老人と、新聞記者がそれを追いかける。そして遂に3つの点が秋田県大館市で遭遇する。ここで初めてヒグマドンの全貌が明かされ、物語はアメリカ大統領すら巻き込む全世界レベルで進行していく。

Wikipediaより引用

感想 解説 考察など

今回は新井英樹先生の超有名作、ザ・ワールド・イズ・マインをご紹介していきたいと思います!

作者の新井先生の皮肉たっぷりな描写が面白い一作ですが重大なテーマやメッセージ性を含む今作はかなり難解です。

この記事が物語を楽しむ一助になれば幸いです!

同じく新井英樹先生の作品はこちら↓

圧倒的な暴力描写と死んだ人間の背景までも…

この漫画はとにかく人がバンバン死にます。
大人も子供も女も男も無慈悲に殺されていきます。

ヒグマドンという謎の巨大生物に踏みつぶされたり、モンちゃんトシというイかれた二人もめちゃくちゃ人を殺します。

その描写がかなりエグイです。
この辺がとても人を選ぶかも。
内臓や断面など事細かく描写されています…

それだけなら普通の漫画なんですがこの漫画は他の人が死にまくるだけではなく、死ぬまで、もしくは死んだあとにリアリティを生み出す場面がよく描写されます。

たとえばヒグマドンに踏みつぶされる小学生とその教師。

小学生たちが5、6人くらいで猫を串で刺したり蹴りを入れたり動物虐待を行っていた所を女教師が涙ながらに、動物や人間も同じ命、想像する力があるから人間だけが命の重さを知る事ができるんだと力説した後ヒグマドンに襲われます。

その時生徒たちを逃がそうとしてさっきまで命の重さを説いていた猫の死骸を持ってエサはここだあ!とヒグマドンを誘導しようとします。

しかし無残にも生徒たちは皆殺しにされ教師も踏みつぶされて死にます。

他にもダンサーを夢見る高校生が親と上京するかどうかで揉めて、山に山菜を取りにいったおばあちゃんの所へ不貞腐れて行きます。
そこでヒグマドンに遭遇してぐちゃぐちゃにされバケツに入れられた死体として帰ってきます。

他にも死んでいく人間のバックグランドなどいちいち詳細に描写されます。
そしてそれがものすごくリアルなんです。

ものすごく多くの人を殺しまくる漫画ですが、ここまで死んでいった人達をリアルに描写する漫画はかつてなかったと思います…

その緻密な描写の為より読者は死についてリアルに考えられるのではないでしょうか?

壮大なテーマ性。人の命の価値や重さは…

暴力描写だけではなく、この漫画は人の命の価値という難解なテーマも語られています。

青森の警察署に大量虐殺してたて籠るトシとモンちゃん。
トシは包囲する警察たちに向かって三つの要求を出します。

一つ目の要求「人種別、国別の命の重さ、ついでに値段も」

二つ目の要求「国が公式発表しろ。人が人を殺してはいけない理由はなに?法以外にあるなら戦争含めて教えろ、ただし宗教を持ち出すのは禁止」

三つ目の要求「世に棲む生きとし生けるものすべてが、自由に、平和に、平等に、美しく明るく楽しく暮らせる、幸福と善意と優しと愛に満ちた世界を要求する」

この難解な要求を制限時間2時間で総理大臣に会見開いて回答しろと。
時間厳守で遅れたら人質を殺すと要求します。(実は人質はすでに死んでいます)

それに対して内閣総理大臣の由利の回答が非常に印象的でした。

命にはハナから価値はない。
内閣総理大臣の由利の「人の価値は時価」という持論。
むろん格差もあるが重さも値段も他者との関係で築きあげるもの。
ただし補償額でいうなら現実的に一個人においてもそう時価である。

法律・宗教以外で戦争を含めた「殺人はいけない」という理由について。
理由は…ない!
あれば法律や宗教など必要ない!
そして戦争は善悪を問わず国家が認める殺人である!

そして最後に世に棲む生きとし生けるものすべてが自由に平和に平等に美しく明るく楽しく暮らせる、幸福と善意と優しさと愛に満ちた世界の要求については、情けない質問と断じ、
そんな世界は永久にない!!と、回答。

国を挙げて専門家たちに聞いてみてもその大半が人は誰しもが人を殺しうると言った前提でしか論じる事ができませんでした。

総理大臣の由利は続けて、ただそれでも悪い事は悪いと頭ごなしに理屈もへったくれもなくどやしつける事ができる大人になって欲しいと国民に訴えかけます。

先の回答の解釈として、それでも命は重く大切であり人を殺すことは悪い事である、ユートピアは存在しなくとも目指すべき世界である事に間違いないとトシモンに回答します。
そしてトシモン達の存在をなくすことが少なくとも目指すべき世界の一歩であると。

そして思い及ぶ範囲の弔意を表します。

それに対し当然マスコミがかみつきます。
思い及ぶ範囲の弔意とはとはその程度という悲しみなのかと。

それに対しても由利はこう返します。

「人間はあまりにも多くの人の死を感じる事ができない。
自身や身の回りの人の死については考えられても、他人が100人死んでも1000人死んでもただの数字としてしか感じる事ができない。」

マスコミがフォローできる死はせいぜい10人単位。自身も含め数百人、数千人の死を個人個人の死として認識できるほど人間の想像力は豊かではないと断じました。

そして人の死を娯楽化しそのリアリティを奪ったのは、個々の意識かマスコミか、それとも日本の平和のせいか考えて欲しいと。

その理論に対して真っ向に対立する、モンちゃんの人の死は平等に無価値という価値観。
後にわかりますが由利の言った想像力。それがモンちゃんには全くないんですよね。

ここから先はネタバレを含みます!

モンちゃんとはなんだったのか

人の命は無価値だと断言するモンちゃんはなにものだったのでしょう?
「死んだほうがいい奴は死んだほうがいい」これもモンちゃんのセリフです。

物語の後半で、母親に死ねと言われ小さなうちに捨てられ、実在主義と空手の融合を目指したレイプ魔によって暴力とサバイバル知識を学んだ人間です。
母親が捨てる前からネグレクト気味。愛情などは誰からも与えられた事がありません。

生い立ちの過酷さ故、道徳心というものが全くありません。
自身の価値観といえば「俺は俺を肯定する」というもの。

これは神や天物などには一切依らず、自ら自分自身を認めるというもの。
宗教に対する反論のような概念です。

しかしこれらも頭のおかしいレイプ魔からの受け売りの思想です。
モンちゃん自身がしっかり理解しているかも謎ですし、この言葉を唱えていたレイプ魔ですらわからないかもしれません。

当初痛みを知らなかったモンちゃんはヒグマドンと出会う事により他人の痛みを感じられるようになり、簡単に人を殺したり傷つける事ができなくなりました。

これは由利のいう個々の人の死や痛みをヒグマドンを通じて感じる事ができ、想像力が生まれた為でしょう。

そしてマリアと出会い母性という拠り所ができ、再び暴力が振るえるようになります。
自身で自身を肯定するのではなく、また宗教のように神にそれをゆだねるのではなく母性という絶対的なものに肯定される感覚はモンちゃんにとって初めての愛、母性だったのでしょう。
それのおかげでモンちゃんは元通り人を傷つける事ができるようになりました。

最後にはマリアの死によって不思議なオーラを持つようになりました。
想像力を持ち、母性や愛により自身を確立し、またそれを失う事によりさらに高次の存在になったかのような描写です。

モンちゃんはカリスマ性を持って信者を増やし、結果的に人類滅亡の引き金、第三次世界大戦の原因となります。
アメリカやロシア、中国、インドなど核保有国が一斉に核ミサイルを打ってしまうという未来。

彼は人として宗教や道徳的価値観、愛、母性、周りとの関係性を省いた人間がどうなるかを示したキャラクターだと思います。
純粋な力を宗教や神の目を恐れずに暴力として振るえる事ができるキャラ。

ようはよく日本で持ち出される朧気な無神論的な道徳感、「お天道様が見てるから悪い事はしちゃダメ」というものが全く理解できない人間。
強烈ですね。

ラストの意味とは?

最終話では第三次世界大戦が行われ地球は滅亡しました。
その際、コールドスリープされたモンちゃんの死体がどこか別の星に辿り着き、そこから生まれた生命たちがモンちゃんの死体と出会うという内容で終わります。

これは2001年宇宙の旅のオマージュかな?

この時、モンちゃんは新しい世界の創造主、神となり世界はモンちゃんのものになりました。

まさにワールドイズマイン。
スカーフェイスのワールドイズユアーズをもじったタイトルですね。
ちなみに記者の星野が喫茶店でヒグマドンの取材中、バックのポスターが地味にスカーフェイスのものでした。ほんとどうでもいいことですが…

最後に

今作では一般人が非常にバカ、ゲス、低俗なものとして徹底的に書き下ろされています。

またマスコミ関係者もかなりゲスに描かれています。

これは作者の新井英樹先生が思う日本の(当時の)現状を現しているのではないかなと。
今でも通ずるマスコミの在り方や衆愚的な日本人を痛烈に批判した作品だと感じました。

ただ上で挙げたトシの3つの要求なんかは、作者である新井英樹先生の皮肉を込めつつですが、そんなものがあるなら知りたい、誰か教えてくれといったロマンチックなものを感じました。

90年代から00年代にかけて連載された漫画ですが、現在の日本の現状と変わりないダメな所を皮肉たっぷりに描いた超名作だと思います!

評価
エログロ要素全開の本作ですが、命の価値などの壮大なテーマ性を持った作品!
あえて糞に描写した国民とマスコミ。人一人の死について考えさせるもの!
その裏側には期待も込められているのではないかと思います。 99点

あまりも膨大な情報量の漫画の為、自身の思いや解説など書ききれない…

他にも思う事がたくさんあるのですが文章にまとめるのが今の僕にはできません…

もう少ししたらしっかり構成を練って書き直したいと思います…